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ローレンツ「攻撃」より5.ネズミたち

 ローレンツは13章「この人を見よ」の中で、「別の惑星から人間を眺めてみたら、人間の社会集団はネズミとそっくりであると結論するだろう」と述べている。
 
 ネズミは家族を基本とする同じ群れの「匂い」だけで相手を識別する。重要なことは、「個体一匹一匹の識別は無い」という。同じ匂いの同属に関しては子育ても共同で行い、同族の中では非常に紳士的である。また食べ物の毒性といった知識を同族間で伝える「文化」もある。

 しかし群れの中の「順位」は無く、家族のほかはリーダー的な「組織」も無い。群れ全体で縄張りをキープし、異なる匂いのネズミが来ると残忍な方法で殺戮する。

 この殺戮の方法が残忍で、「同種である」ということを感じさせない。情け容赦なく追い回し、負われた少数派ネズミは最後はショック死するという。

 同種であるが異なる集団に属する相手への非常に残忍な攻撃性、集団から集団への攻撃性は、縄張りをキープして餌などの資源を有効に分配するための他の動物に見られる合目的的な種内攻撃性とは異質で、ローレンツは「進化の袋小路」と呼んでいる。全体として環境に適応して生き延びることに逆行しかねない行動であるからだ。

 このブログでも「多数派」とレッテルを貼って「多数派への敵意」として述べたり行動したりすれば、上記のネズミと何も変わらないことになるだろう。

 まあ私は多数派(もちろん我々発達障害者の集団も)の行動を「理解」することを目標としており、多数派の行動が時としてニシンの群れのような無目的な集団行動になったり、またネズミのように異集団への残虐さを示したりすることの理解の参考としてローレンツの述べている分析は示唆に富むと考えている。

 この意味ではASの人の集団はオオカミであるから、(他の群れには厳しいが)一頭一頭の個体識別に基づく集団であり、リーダーや順位もあり、少なくともニシンやネズミよりは高等であるのかもしれない。

 ところでジャイアンは個体識別能力が本能のレベルでは欠けているように思うので、ジャイアンが集団を作るとほとんどネズミになりそうで怖い。

 相手を残忍な仕方で殺しても何とも思わないあたりがネズミに近いように私は自分で思う。


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コメント

    • 黒すりごま
    • 2010年 12月 13日

    ローレンツ氏は驚くほど淡々とドライに冷静に動物を観察・分析していますね。
    「進化の袋小路」というのはショッキングでした。

    • はすのはな
    • 2010年 12月 13日

    先日、夢を見ました。
    山の中のような場所にある集団がいて、私を含む数人が捕虜としてがんじがらめに縛られ、抹殺されるのをまっているというシチュエーションでした。集団は服装も背格好も本当に普通の人々なのですが、とにかく猟奇的で異常な心理状態であることがわかりました。
    私は携帯を持っていて、なんとか知人に場所を伝えようとするのですが、もどかしいほどうまくいきません。そうすると集団の中の可愛らしい女性がにこにこしながら「ここだよ」と現在地の場所を示す紙を手渡すのです。
    ぞっとして目が覚めました。「怖い」と一言つぶやかずにはいられませんでした。
    今回の記事が、その夢とあまりにリンクしていてコメントさせていただきましたが、私自身はここでジャイアンや多数派の違いに言及するつもりはありません。なぜなら多数派の集団にも善意の仮面をかぶって相手を取り込み、ゆくゆくは攻撃するというものが存在するからです。
    ジョージ・スタイナーの本にも書いてありました。「人間というものは、夕べにゲーテやリルケを読み、バッハやシューベルトを演奏しながら、朝にはアウシュヴィッツで一日の業務につくことができるものである」と。
    先生の記事には普遍性が感じられます。きっと当事者であるご自身のことを深く深く掘り下げて考えてこられた上での発言だと思うからです。だからこそ多数派(だと思う)私自身も触発されているような気がします。
    「理解しあう」という永い旅はまだ始まったばかりかもしれませんが、このブログを読んで時には立ち止まり、考え続けていきたいと思っています。

    • あまがえる
    • 2010年 12月 13日

    ネズミが同種を激しく攻撃するのは初めてしりました。いじめっ子達の行動に似ているように見えます。
    ASはオオカミっぽいのですね。
    僕はオオカミの群れで暮らしたいと何年もずっと思っています。オオカミの群れを研究している研究者がいて、彼は2つの群れのリーダーを努めており、オオカミを研究しているのです。

    • YK
    • 2010年 12月 13日

    関係あるかどうか分かりませんが、
    私は気の合った集団の中で楽しく過ごしている時、
    外から誰かが入ってきたら、その人を追い出したくてたまらなくなります。
    その人が嫌な人だからではなく、
    その人が入ることで場の雰囲気が変わるのが嫌なのです。
    寸分違わずそのままであってほしいのです。
    追い出したい衝動を抑えるのに苦労して、疲れ果て、
    結局自分がそのグループから遠ざからざるをえなくなることもあります。
    そして結局最後はまた一人に戻るんです。
    人の中に居ると、自分の衝動との格闘に終始してしまうのが悲しいです。

    • 黒すりごま
    • 2010年 12月 14日

    「固体識別能力」というのがなかなか難しいですね。
    ローレンツは人間がネズミとそっくりだと言う。つまり人間には固体識別能力がないということになる・・・このへんが難しいです。私は単純に人間には「固体識別能力」は、もちろんジャイアンさんも含めて全員にあるように思うのですが。
    言葉の意味がよくわかっていないのかもしれません。

    • 黒すりごま
    • 2010年 12月 14日

    自分が子どもの頃、「自分と他者との関係」が白いもやに包まれているような感じがしていて、何か不安な感じが常にありました。大人になるにつれ、それがどんどんクリアーになっていき、もやが晴れました。
    その感覚の違いと「固体識別能力」というものが関係あるのだとすれば、イメージはつかみやすいですが。

    • 黒すりごま
    • 2010年 12月 14日

    たびたび失礼します。前回コメントの文字訂正です。
    固体識別能力
       ↓
    個体識別能力
    大事な用語を間違ってしまいました。

    • ちひろ
    • 2010年 12月 14日

    多数派は集団内でひとりひとりの色が混ざって自分も他者も一色になる。
    ASは集団をバラバラの色でとらえる。
    ジャイアンは他者はキャンパスにすぎない。
    このイメージで大丈夫・・・かな?

    • ちひろ
    • 2010年 12月 14日

    はすのはなさんの夢に出てきた女性が、まるで私・・ちひろのようです。ちひろはここでKYなコメントを書きつづって、生贄のリアルな「私」に居場所のメモ書き渡しています。
    リアルはファンタージーに住むお姫様ですから、自分は巫女(神子、皇女)の心持で、祭壇に座っているのです。最初はジャイアンのなれの果てだと思ったのですが、最近ASのような気がしてます。
    あわやショック死するところをなんとか祭壇からひきずりおろし、この場所につれてきているのです。でもほっとくとすぐに登ろうします。困ったものです。
    スレッドを汚して申し訳ありません。
    でも、リアルな私は回復路線にようやく乗れた気がします。
    先日、スポーツサークルの人たちと狭く安い居酒屋で3時近くまで忘年会に行きました。私はアルコールはイケる方で、多数派(?)です。「奥さん大切」といいながら私に体をず~~とくっつけた男を左に、「俺、年上でも全然OKだしっ!」と言う年下独男を右において安酒のんで騒ぎました。
    夫の裏切りに気づいたのは、2004年のクリスマスイブの夜明け前。「処女で付き合って夫だけしか知らず、裏切られて、セックスレスの純潔奥様」からめでたく脱皮しました。(あ!騒いだだけですっ!!!)
    神様に携帯電話をかけるのはもうやめます。(もちろん隣のダメ男にも!!!)
    脱線注意ですが、これが私の地面を走る回復路線だと思っています。

    • はすのはな
    • 2010年 12月 15日

    私がこのブログを初めて読んだ時の正直な印象は、多数派も少数派もないな、ということでした。ここでのコメントもそれぞれの立場からお互いを思い合うような発言が感じられ、ああ、こういう世界もあるんだと。
    当事者の彼に突然の別れを告げられ、この感じは一変しました。なんて身勝手な人たちだろうと。受け入れられなかったショックを投影していたと思います。ただ、ひたすら彼の姿をここに探しながら自問自答を繰り返していました。
    いまは「向き合おう」と私自身が本気で決めました。それは自分自身のことであったり、彼を含む周りの人々であったり、生き方であったり。どうしようもない等身大の自分で。だからちひろさんのコメント、なんとなく明るさが感じられます。
    蛇足ですが、その夢で彼女が紙を手渡した時「こんなことしたら、アナタが危険になるから、駄目だよ」と私は言ってしまうのです。生命の危機的状況になっても私はアホやなあ〜とつくづく思いました。

    • ちひろ
    • 2010年 12月 16日

    私はASのような気がします。
    他者のフラット感があって、ジャイアンかと思っていたのですが、それは愛着者ではない他者がフラットなだけでした。愛着者は他者ではなく自分です。自分の「器」です。
    器の中身は「他者」みたいですが・・(私だけ?)
    今思うと、かつての私の器である「夫」に対する信頼(依存)は、子供が親を愛するようなものでした。どんなに証拠を目の前に拡げられても「愛されてない自分」を想像することができないのです。これはきっと、広い意味でのDV男を引き寄せる苗床・・・暴力すら愛の証です。
    幸か不幸か夫の裏切りによって「器」がからっぽになり、どうやらそこに「神様」が入っていました。
    (しかも生贄が好きらしい!)
    私はASとしてもう一回、自分の洗い出しをしようと思います。

    • 黒すりごま
    • 2010年 12月 18日

    差別に対して「暴力」ではなく「非暴力」で対抗したガンジーやマルティン・ルーサー・キング牧師。
    彼らを支えた言葉は
    「非暴力に敗北というものはない。これに対して暴力の果ては必ず敗北である」
    同じ人間として彼らの存在は私にとって「光」です。

    • ヒゲ達磨(AS?)
    • 2010年 12月 18日

    ねずみは、匂いで個体識別をしているようです。
    >フェロモンによるマウスの雌雄識別、個体識別のメカニズムを解明 – 嗅覚受容細胞の活動を蛍光タンパク質で可視化し、フェロモンの作用を解析 – < 2008年5月理研プレスリリース
    http://www.riken.go.jp/r-world/research/results/2008/080508/index.html
    以下要約
    マウスの尿に含まれるフェロモンによる雄雌識別と個体識別のメカニズムを嗅覚受容細胞で解明しました。
    フェロモンとは、動物の尿や体からの分泌物に含まれる化学物質で、このフェロモンにより動物は行動や生理的な変化を起こします。フェロモンは、マウス(げっ歯類)では鼻の中にある鋤鼻器(じょびき)という器官で、「におい」として感知されます。鋤鼻器には、フェロモンと結合する嗅覚受容細胞が250種類以上あることが知られています。嗅覚受容細胞にフェロモンが結合すると、嗅覚受容細胞の細胞質内でカルシウムイオン濃度が上昇します。そのシグナルは、さらに脳へと伝わり、情報処理されて行動や生理的変化として効果を発揮します。
    フェロモンの実験は、2~6カ月齢の雄または雌のG2マウスの鋤鼻器のスライス標本を用い、希釈した尿を標本にふりかけたときの蛍光変化をレーザー顕微鏡により光学的に測定することで行いました。尿は、複数の雄または複数の雌から集め、雄だけの混合尿、雌だけの混合尿を用意しました。
    尿をかけると30~40%の嗅覚受容細胞が反応しましたが、雄の混合尿をかけたときと、雌の混合尿をかけたときでは反応する細胞が異なっていました。約15%の細胞はどちらの混合尿にも反応しましたが、約8%の細胞は雄の混合尿にのみ反応を示し、約12%の細胞は雌の混合尿にのみ反応を示しました。この実験では、雄も雌もほぼ同様の反応を示し、違いは見られませんでした。
    続く

    • ヒゲ達磨(AS?)
    • 2010年 12月 18日

    続きです
    次に、雄、雌5匹ずつ個々のマウスの尿を用いて同様の実験を行ってみました。雌の尿に反応せず5匹の雄の尿に1つでも反応した細胞は、全体の5%程度あり、雄の尿に反応せず5匹の雌の尿に1つでも反応した細胞は、全体の9.5%でした。また、5匹すべての雄の尿にのみ反応した細胞(MUSC)は全体の1%、5匹すべての雌の尿にのみ反応した細胞(FUSC)は全体の2.6%でした。その割合はわずかですが、このMUSC、FUSCが雌雄識別に関連すると考えました。
    そこで、去勢した雄の尿を用いて実験を行いました。去勢した雄の尿では、正常な雄の尿のときよりも、より多くの嗅覚受容細胞で反応が見られるようになりました。しかし、雄の尿にのみ反応する細胞MUSCでは反応がなくなり、一方これまで雄の尿では反応を示さなかった細胞が反応を示すようになりました。このことは、去勢した雄のフェロモンは、雄として認識されにくくなったことを示しています。
    雌の尿は、雄の場合と比較してより複雑です。例えば、月経周期によって異なる反応パターンを示します。
    尿に含まれるフェロモンによって性別の違いを識別できる以外に、兄弟姉妹の識別や、それぞれの個体の識別ができるかについても確認しました。実際に、兄弟姉妹でない場合に比べて兄弟姉妹から取った尿に対しては、反応のパターンにより多くの共通性が認められます。しかし、どの2つの尿を取ってみても反応する嗅覚受容細胞のパターンが全く同じになることはなく、同腹子から取った尿に対してでさえも、反応パターンが全く同じになることはありませんでした。従って、少なくとも嗅覚受容細胞のレベルでは、個体の識別が可能で、反応する嗅覚受容細胞のパターン認識により個体識別が行われていると予想できます。
    以上終わり
    異なる匂いのネズミが縄張り内にくると情け容赦なく追い回し追われた少数派ネズミは最後はショック死するそうですが、縄張りから遁走できる状況ならどうなのか?侵入ネズミが縄張りから離れても、追いまわすのか?
    侵入ネズミが排卵期=発情期のメス(フェロモンで認識できる)で、オスが発見した場合はどうなのか?哺乳類の雄の発情は、発情雌のフェロモンで誘発されるし、発見オスは侵入発情雌と交尾して子を生ませた方が利益になるし、・・ASは妄想が止まりません。

    • あおいよる。
    • 2013年 7月 23日

    前回に引き続き拾い読みしては、あちらこちらにちまちまコメントしていきます。
    >この意味ではASの人の集団はオオカミであるから、(他の群れには厳しいが)一頭一頭の個体識別に基づく集団であり、
    ピッタリ、です。ネズミとの対比もあわせて。
    まさにASな自分自身である、と言える(言いたい)感覚です。
    所属している集団における、「多数派とそうでない少数派」の関係性を考える上での表現として非常にイメージしやすいです。
    多数派の『ネズミ』的集団を形成上するルールからイメージする言葉は
    同調圧力、集団心理、グループダイナミクス、同化への欲求、(マズローの)所属欲求、etcetc。
    ひいては種の保存としての本能的な選別、排除、結果的な自然淘汰。
    …ああ、オオカミの自分をイメージしていて
    属する集団では(多数派が混ざっていても)リーダーに従ったり役割を遵守したりするけれど
    誰が見ても従える『その所属している組織(グループ)におけるルール』がない限りは
    集まっているASオオカミたちのうち、何匹かは『それ、ここでのルールじゃないよね。』『前にこうしようって決めたけどそれって~~っていう意味じゃなかったっけ』などの反論や議論などなどもあるだろうし(でもそれはAS同士ならごく自然にそういうやり取りになっちゃうことが多い、かな、少なくとも身近な職場でのASらしき人とでは。)
    あわねーなぁ、ってなったらそこから離れて文字通りの一匹狼になっても大丈夫な生き物だよね、と言語化できました。
    学生時代の一匹狼な自分を思い出しつつ。

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