AC、人格障害関連

ローレンツ「攻撃」より6.攻撃性と個体認識1

 ローレンツの「攻撃」の主題は、攻撃性と個体認識、攻撃性の抑制システムにある。一番のポイントは、「個体同士の結び付きの儀式は攻撃の動作を再定位して出来ている」ということだ。

 具体的には、「威嚇や攻撃の動作を相手の方向から少しずらして行う」ことが、あいさつであったり絆を結ぶときのアクションであったりする。

 ある種の熱帯魚(シクリッド)では、縄張りの中で同じ模様でいる雌は雄にとって当然攻撃の対象になり、攻撃しようと実際飛び掛りそうになるが、パートナーの場合はギリギリで相手の前を通り過ぎて別の同種の魚、何も居なければ空を攻撃するという行動が見られる。

 「私は攻撃したいが、それはあなたへでなくて別の相手に対するものです」という行動上のアピールが「和平」および「友愛」の意味になっているわけだ。

 ハイイロガンなどに見られる「駆りたて」「勝ちどき」と呼ばれる動作も、「別の雌を攻撃して雄のもとに逃げ帰って雄に攻撃をけしかける動作」、および「雄が相手を屈服させて雌のもとに戻って勝利をアピールする」だったのが、敵が居なくても「あなたは仲間です」という意味を持つ動作に「自立」している。

 他方で種内の攻撃性の無いニシンの群れでは特定の個体は名前のある形でお互い認知されることは無い。
 群れの中の役割も無く、ただ「無目的」に集団となっているだけである。

 ネズミでもどこそこの何さんという名前のある個体を識別した関係ではなく、特定の匂いを共有する親族の延長上だけが攻撃されないというシステムであり、この意味は「もともと血族でないネズミが縄張りを持って以降に新しく友情の関係を結ぶことはあり得ない」という意味であると私は理解する。

 ハイイロガンでは人間と同じく特定の個体の識別(名前をつけられるように一羽一羽を区別できる)能力があり、その特定の関係を成り立たせるために上記の動作が交わされるという
システムになっている。
 
 この自立した攻撃衝動と和平の行動の密接な関係がローレンツの「攻撃」の中で最も大きな論点であり、ローレンツはハイイロガンの群れの一羽一羽の詳細な観察から、他者との関わりに関する行動上の人間との類似性を強調している。(この点は具体的に例示してあり非常に面白いのでぜひ一読されることをお勧めする)。

 この後で私は「種内の攻撃行動」と「他者への友愛」「個体認識」の関わりについて考察し、最後に「ジャイアンの障害の一つの本質が個体認識の障害である」ことに考えを進めたい。(つづく)


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