前項で述べたようにジャイアンのファンタジーには「本人に現実逃避や代償満足などの利得がある」という特徴がある。その結果として、「ファンタジーに引きこもる」という経過がたびたび見られ、表面上は「難治性の妄想」という見かけとなる。
「妄想性障害」という病気がある。中年以降のどちらかと言えば活発で知能程度も高い人で、妄想以外には全く問題なく日常生活を送れる。パートナーへの嫉妬妄想や誇大妄想など、妄想内容はいろいろあるが、「抗精神病薬が効かない」という風に一般には言われている。
50代以降の女性では「退行期妄想症」という呼び方をされる一群もあり、この場合はスルピリド150mg程度の少量が著効することがある。
この妄想性障害は、もともと知能程度の高い強迫的な性格の人が多く、また自分が病気と考えていないので、当然治療は容易ではない。そのまま妄想だと言えば主治医と患者の関係も成り立たない場合が多い。結果多くの精神科医はこういう患者を敬遠する。
上記の諸特徴は、前項のジャイアンのファンタジーと実は非常に共通する。最近私は、「妄想性障害はジャイアンがファンタジーに引きこもってしまった状態」なのではないかと考えている。
難治性であることは、「このファンタジーが実はもっと大変なストレスを伴う現実から目を逸らす機能を持っている」と考えれば説明は可能だ。
「中心志向型のジャイアンが、加齢とともにそれまでキープしてきた表面的な社会的ステータスを保ちきれなくなったとき」や、「依存型ジャイアンが依存対象を失ったとき」、現実的な借金などの経済的な失敗などがある場合、ファンタジーの世界に引きこもって、自分でも信じ込み、周囲からの助言に耳を貸さなければ、現実否認を続けることが出来る。
こういう推論で病態が説明できそうな中高年の妄想の人は実はたくさんいる。実際には単純に統合失調症と診断して抗精神病薬を処方しても良くならないという経過になっていることが多いだろう。
上記のような病態であったとして、「どうやって治すか」となるとなかなか難しい。若い人なら厳しい環境調整で依存対象を断ち切り、自立する中で現実否認を根本的に乗り越えることを治療目標とするが、高齢のケースでは厳しい直面化をするとうつ病になったりその後本当の認知症に移行することもありそうなので、家族とじっくり相談することになる。
現世的な宗教に依存する「宗教ジャイアン」もこの仲間に近いだろう。またこのファンタジーの住人は、ファンタジーに近い内容の詐欺に簡単に騙されるのも悲しい現実である。
高齢者の場合は確かにデリケートですね。今後の義父への対応には工夫がいると思います。どういう経過になることやら。
〔追記〕
>高齢のケースでは厳しい直面化をするとうつ病になったりその後本当の認知症に移行することもありそうなので
今後の義父の様子を注意深く観察しながら対応を決めていく必要がありますが、最近6年間の様子を振り返ってみると、
「厳しい直面化」をした結果、むしろジャイアン特有のたくましさ(このままでは自分に不利だという直観)で、「覚醒」した感じがあり、うつや認知症とは反対の方向に戻ってきた感じがありました。そしてさっぱりと明るくなっていました。ですからこういう一面を考えるとすごく微妙ですね。ただ80才の時と現在の86才ではまた状況が違っていますので、慎重に対処したいと思います。
>高齢のケースでは厳しい直面化をするとうつ病になったりその後本当の認知症に移行することもありそうなので
義理父は、73歳でジャイアンですが残りの人生を平穏に過ごして欲しいと思ってます。彼も大動脈瘤の手術をしてから怒ると血管の為に良くないので我慢をするという考えに変わってきてます。(怒りの原因は対人関係の思い込みが多いのですが…)
その代わり、対処法として親族が義理父から適度の距離を取って彼に振り回されないようにしています。義理母は、同居なので辛い立場ですが…。
先生の言われるように[どうやって治すか]となるとなかなか難しいと私も感じます。
初めてメールさせていただきます。
私には、ASの友人が居て、ヤンバル先生のブログには本当にたくさんの学びをいただいております。
友人は成人、男性、積極奇異型なのですが、教えていただきたいことがあるのです。
友人はとても饒舌で知的な話し方をします。
なので、もっともらしいことを言っているようで、実は会話を吟味すると、聞いた事に対して答えの周辺や持論を述べていて、ちゃんと答えられていないことが多いです。
その原因と思われるのは卓球会話のスピードで、こちらが話したり、聞いたりした途端、間髪入れずに返答する・・瞬間的に打ち返す応答をずっと続けているのです。
「これでは、相手の質問の主旨や会話の流れをつかみ取る暇もないだろう」と感じます。
最近「世間話が好きな友人」とASの友人が会話をしているのを、その場で眼をつぶって聞いていました。
ASの友人は、芸能ネタや生活の現実話には興味が無いのですが、世間話とはそういうTVやニチジョウに散らばった話題を次々に脈絡無く話すわけですから、ASの友人には苦痛であろうと感じていました。
しだいに会話の回転率が早くなり、声と声とが高速で重なり合い、もうテーマもつじつまもふっとんで、会話の早送り状態となりました。
このASの友人と話していると、誰もが彼の独特のスピード感と議論熱、に巻き込まれがちです。
会話して気がつくと、こちらは疲労しています。
疲労しているわりには「話をしてお互いがやりとりをした、という実感が残らない」という空っぽ感にむなしくなります。
長く会話するほど空しさも大きいという不思議。
なのに一端会話が始まると、もっともらしい議論になって巻き込まれてしまう魅力。
お話好きの積極奇異型のAsの人の場合、疲労感や空しさは感じないのでしょうか?
内容より話す応酬行為のみが好きなのでしょうか?
高速回転になっている最中のASの友人は、実は躁状態やトランス状態に陥っているのでしょうか?
対話になっていないのに、ものすごく会話してしまうASの友人。
巻き込まれてしまう周囲。
これは、どう納得すれば良いものでしょうか?
「妄想性障害」というと二人女性の方で思い浮かびます。
一人は、アスペの診断を受けていて
もう一人は鬱の持病を持っています。
どちらも共通しているのは、自分に自信がなく、
そのためか相手を批判、批評する表現が多いです。
ときには自分が考えていることが「あの人がこう言っている」、
もう一人は人が言ったことを自分が考えたことのように言います。
どちらもASがベースにあると思うのですが、
妄想性が強いのはADHDがあるのでしょうか?
ADHDの傾向が強い私の場合は、その逆で
被害妄想に陥りやすいです。
相手がこのように悪く言っていると考えてしまいます。
自分が思い込んでしまったことを
相手に訴えるがのごとく話をしてしまい、
相手をも巻き込んでしまうのは、
上述の二人ともとも変わりないかもしれないと思ったりもします。
りんご / 2010.09.06 09:02 さん
はじめまして、初老の積極奇異型のAs?です。
>お話好きの積極奇異型のAsの人の場合、疲労感や空しさは感じないのでしょうか?
内容より話す応酬行為のみが好きなのでしょうか?
高速回転になっている最中のASの友人は、実は躁状態やトランス状態に陥っているのでしょうか?< 疲労感はあっても空しさはないですね。相手の話で、触発されて湧き出た想念を吐き出している感じです。躁状態やトランス状態ではないですね。 友人の方は、診断などがありご自分が積極奇異型のAsと自覚していらしゃいますか? 自覚があるとすれば、りんごさんの 「これでは、相手の質問の主旨や会話の流れをつかみ取る暇もないだろう」 「話をしてお互いがやりとりをした、という実感が残らない」という空っぽ感にむなしくなります という感想を率直に伝えられるのが、良いかと思います。りんごさんは、「私の主旨を理解して流れにそったやり取りをした充足感のある会話を貴方としたい」との思いを伝えるのを忘れないで下さい。 「充足感のある会話を貴方としたい」という思い、価値観を友人の方と共有できれば、改善できるか、その糸口は見つけられるかと思います。