これまで述べてきたように、ACの本質は「自分が悪いと思い込んでいる」「自分の問題と人の問題の区別がつかない」という認知のゆがみで、その修正がカウンセリングの目標である。
ACには、「ここがACの認知のゆがみが生じたところだ」というはっきりした原因や状況が特定できることが多い。母親の態度や言葉であったり、父親からの虐待の恐怖の場面であったり、家庭全体の危機の状況であったり、いろいろだが、詳細な家計図とアルバムを用いて丹念に過去から生い立ちを振り返ってみると、「この場面だ」という状況がふとしたきっかけで口をついて出てくる。あまりに恐怖の状況では記憶さえ消されることがあり、「思い出しなさい」というとおそらく出てこないような体験が、写真などの現実的な材料を用いると「そう言えば」と言う感じで出てくることがある。ここが認知の修正のチャンスである。
重要なのは、過去の感情ではない。そのときの状況に関する事実関係の整理である。トラウマになっているような感情は引っ張り出す必要はなく、「その頃どうだったか?」という事実関係を現在の頭で見なおす」という作業を行う。
「ACはどのようにして出来るか?」でも述べたように、ACになる瞬間は、「子供には選択の余地が無い」という状況であった。「自分は親から愛されていない」という事実を子供のときに受け止められなくて、「自分が悪い」と自分に言い聞かせ、また「本当に自分は愛されていないのか?」という根本的な問いから目をそらし続けるために、「本当のことは見ない」という認知のパターンが生じる。
それを、「大人である現在の客観的な立場から見直し、親が悪いところは親が悪い」と認知をリセットできれば、ACは劇的に治る。これがACのカウンセリングのアウトラインである。
「今はあなたは子供ではありません」「子供のときには、自分が悪いと思うしかなかったけれど、今はあなたは大人で、ちゃんと考える力もあります」「その目でこれまで振り返ってきた事実を見据えると、あなたの状況は虐待と言うしかないでしょう」あるいは「これは明らかにお母さんの問題で、あなたの問題ではないですね」と返してみて、「私が悪いんじゃ無かったんですね」と涙を流すような場面を何度か経ると、ある時から「私は私ですから」と当たり前に言えるようになる。ACの回復、認知の修正の完了である。
トラウマがあまりに強く、振り返り自体に抵抗が強い場合、情報を集めた後で、「これはあなたの家庭ではなくて、関係ない人のお家としましょう」と家族関係を視覚的に図示して、その図の上で話を進める手法も有効である。トラウマに突っ込んでいく必要はない。
ACの本質のひとつに、「本当のことは見ない」という認知の特徴がある。それは、本当のことを考えると、「自分は愛されていなかったのか?」という子供の頃の問いが出てきてしまうので、あらゆる本当のことから目をそらし続けるしかないという形で生じるが、カウンセリングの中でも当然この抵抗は出現する。これを回避するために「客観的な事実関係のみを振り返る」という方針の説明と、証拠としてのアルバムを使うという手法が有効である。ただどうしても抵抗が強い場合、カウンセリング全体を延期するということも当然検討する。例えば現実の問題に話を戻すとか、問題を考える角度を変えることを行いながら、直視できる時期を待つことになる。