原稿3 「ルドルフとイッパイアッテナ」

 

  父親不在と言われ久しい。

 いかに「見捨てられ不安」が強くとも、自分を傷つけるのは異常である。簡単に死んで良かろうはずがない。親の「ペット」として不本意な人生を送っても、自傷や摂食障害、アルコールや薬物、性的逸脱など(嗜癖、アディクション)に陥らない若者もいる。その違いは「依存性」にある。

 ルドルフは偶然トラックに乗り、飼い主から遠くはぐれた迷い子の子猫だ。彼は町でイッパイアッテナという「教養ある」野良猫に出会い、なんと人間の字を習う。野良猫と飼い猫の生き方、縄張り、教養、友達の大切さをごく自然に学んでいく「自立」の物語である。

 徹底した「受容」により優等生を卒業し、率直に語れることは治療の前半でしかない。後半は一転「自立」が目標となる。治療者に依存して落ち着いても治ったことにはならない。少しずつ距離を置き、粘り強いサポートと周到な環境調整によって、自立するまでを見届ける必要がある。

 「野良」の境遇、生活の自立は役に立つ。単身生活とし生活費は定額、問題行動にも一切同情や尻拭いはせず、「自分で責任をとらねばならない」状況をつくる。周囲は決して振り回されないように対応を統一する。

 ルドルフの読み書きの勉強は実に「生きた」学問だ。文字が読めることで彼は自分の故郷が岐阜(私の故郷でもある)と分かり、給食のメニューも読める。成長したルドルフは最後に師であり先輩であるイッパイアッテナの「敵討ち」をして自立を果たす。

 イッパイアッテナのような師匠と呼べる(尊敬できる)大人に出会えたケースはスムーズに自立できる。他方依存させて(支配して)喜ぶ大人も多く、こういう輩に引っかかると道は険しい。

 親を含めた大人として、思春期の若者たちの自立を助ける正しくかつノーマルな接し方がこの本には書かれている。父親の本来こうあるべきだった姿」を再確認できる。 

 私も2児の父親である。最小限、子供の機嫌を伺うのをやめよう。つべこべ言わずとも、親として、誠実に生きている姿を率直に子供に見せよう。育児とはそんなに難しいことではなかったはずだ。