平成15年1月 家庭相談員定例研修会講話
「思春期と精神医療」 ――― 思春期症例のケースマネジメントについて ―――
1.はじめに ――― 思春期症例の難しさ
・問題が表面化しにくい。虐待、DVのケースなど。学校など教育分野の特性。
・多領域にまたがる形で変動する。医療、司法、福祉、教育のさまざまな形で現れる。
・協力を要請できる家族が少ない。
・本人や家族との関係がなかなか築き難い。大人に対する不信、ゼロか百か、人格障害様のパターン。
・アクティング・アウト。自傷行為や暴力、極端な行動化。
2.インテークのケースマネジメントのポイント。――― はじめが肝心。
・最初の対応で次から相談に来なくなる。何とかして引っ張り込む積極性が必要。
・関係当事者が相談に来るまでにいろいろな工夫が必要。「はじめからネットワークを動かす」。
・「本人を中心に、治療、サポートの体制をどうデザインするか」という発想。
・体制が出来たら、ネットワークの情報を集める中心をどこにおき続けるかを考える。
・マネジメントはダイナミックな状況の変化に合わせ、刻々変化する。
3.マネジメントの実際 ――― 具体的に。
A.マネジメント、サポートの体制作り
@親族をリストアップし、協力を得られそうな家族を探す。
(本人とのこれまでの関係などがポイント)。
A関係しうる行政関係者を順に検討する。
・児童相談所
・福祉保健所、福祉事務所、役場(保健師、精神保健相談員、保護CW)、
・教育分野(学校担任、養護教諭、心の教室相談員、スクールカウンセラー、教育委員会の相談員、教育事務所の相談員、教育センター等)
・警察(少年課、サポートセンター)
・地域(民生委員、民生児童委員、区長)
・精神医療(病院、民間クリニック、福祉保健所精神保健相談)
・その他 精神障害者地域生活支援センター、グループホーム、援護寮等。
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B本人、家族それぞれにサポートするスタッフを配し、サポート体制のデザインを作る。
Cネットワークの情報を集める中心を問題に応じて設定し、調整会議を開いて実際の体制を組織する。
B.当事者との関係のとり方
@本人や親に直接会う前に関係者などから極力情報を収集する。
Aネットワーク全体で説得の方法を検討する。
B実際に会う段階では大まかな方針は決定していることが望ましい。
C実際に会うときには、その面接だけで関係を作ることをまず考え、誠意を示して話をする。
D拒絶した場合は深入りせず一旦引き上げ、ネットワークの全体から次なる介入の道を考える。
E誠意を持って接し続けるが個人的な関係は避ける。
F同時に多方面から働きかけを行う。
G虐待例の親は本人と関係が出来てから接触を図る。(直接接触する場合は児童相談所を表に出す。)
H誠意を試すような対応が出てきても、感情的に反応しないで一貫してサポートする姿勢を見せ続ける。
C.アクティング・アウト (自傷行為や暴力など、スタッフを試すような行動)
@「見捨てられるのではないか」という強い不安から生ずる。
A「こんなに心が痛いほど傷ついていることを思い知れ」というメッセージ。
B通常は逆に優等生を演じ続ける。(見捨てられないために)。
C予告したり、基本的には脅しであるが、時々間違って死ぬこともある。
D決して感情的に反応しない。叱ることもしない。
E関係者によっていくつもの顔を使い分けることも少なくない。これは尊重するが、決して振り回されてはいけない。(関係者間は緊密に連携を取る)。
F終始一貫して変わらない対応しかない。しばらくすると関係が安定する。
4.マネジメントをリアルタイムに動かし続ける。
@ネットワークの中心が定期的に連絡調整を行う。
Aネットワークの全体をひとつのプロジェクトでまとめ、同時進行で動かすプランを考える。
Bプロジェクトが無効であったり、終了すれば次のプロジェクトを考えることを繰り返す。
5.まとめ ――― 思春期症例は手間をかける価値がある。
・うつ病や人格障害など大人の精神疾患につながる可能性が大きい。治りにくい。
・犯罪者になっていく可能性もある。
・自殺につながるケースも多いと考えるべき。
・「大人の5倍の資源と時間を投入する価値がある」という調査がある。
・若いうちならば治る可能性が大きい。“分かってくれる大人の存在”。
・ネットワーク全体であたれば労力も分散してそれほど負担にはならない。
皆さん一緒に悩める子供たちの力になりましょう。
平成15年1月31日
後藤健治 国立療養所琉球病院 精神科医
北部福祉保健所クリニック担当医
北部支援センター 顧問医
中央児童相談所 家庭支援専門家会議専門委員